21世紀の林竹二

 後期の授業が始まった。ワークショップ系の授業は特に楽しい(疲れるけど)。
 「絵本製作」の1回目で学生に書いてもらった感想に、「あまり今まで受けたことのない感じの授業だったので新鮮で面白かったです。」とあった。ありがたいことだ。
 「他の授業と違う」「変わった授業」という感想はよくもらう。
 大学の授業はいろいろだが、担当者が自分が大学で受けた授業を参考にすることが多いだろう。
 私もご多分に漏れない。宮城教育大学でワークショップ型の「変わった授業」をたくさん受けた経験が、今役に立っている。

 推薦入試で斎太郎節(さいたらぶし)を踊った(落ちた)。体育の授業に「山野歩走」という大学周辺の山を駆け巡る種目があった。3・4年生で選んだゼミは午後3時から9時まで続く「終バス演習」だった。
 大学は楽しかった。自分が担当する授業でも、ぜひ学生に楽しんでもらいたいと思っている。

 自分の経験を含むエピソードを集めて『教育の冒険 林竹二(はやし たけじ)と宮城教育大学の1970年代』という本を書いた。出版した2003年と、10年後の2013年の2回、大学の同窓会総会に呼ばれて講演をした。恩師や、学校の管理職となった同窓生たちの集まりで、講師の自分はフリーライター。場違い感に溢れていた。

 改革に熱心だった大学と、その礎を築いた学長・林竹二のことを、一般の人に知ってもらいたくて本を書いた。しかし時代は変わる。広く共感を得ることも、後世に伝えることも難しいだろうと、実は思っていた。
 ところが最近ネットで林竹二を検索してみて、その後もちゃんと注目されていることを知った。

◇「林竹二の学問観 と宮教大の教員養成教育改革」遠藤 孝夫
『弘前大学教育学部紀要』第95号 :13-124(2006年3月)
https://hirosaki.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=2297&item_no=1&page_id=13&block_id=21

◇大谷大学 教員エッセイ きょうのことば [2011年04月]
「学んだことの証しは、ただ一つで、何かがかわることである。」
 林 竹二(『学ぶということ』国土社 95頁)
https://www.otani.ac.jp/yomu_page/kotoba/nab3mq000001d7vo.html

◇京都大学大学院 修士論文「林竹二の授業論の検討」松本匡平
『教育方法の探求』 (2016), 19: 31-38
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/226083/1/hte_019_31.pdf

◇科学研究費助成事業
「林竹二の授業実践に関する研究-実践記録、資料に基づいて-」(2019年)
研究代表者:松本 匡平 ヴィアトール学園洛星中学校高等学校, 教諭
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19H00047/
研究成果報告書
https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-19H00047/19H00047_2019_seika.pdf

 最後のものは「教育学者林竹二(1906-1985)が残した膨大な授業実践記録とそれに付随する資料を画像として総計12万枚以上をデータ化した」(研究成果の概要)という、すさまじい研究だ。林の遺族から宮城教育大学に提供されて保存されていた紙の資料を全てスキャンしたそうで、大学のスタッフに加えて「のべ21名の大学生に助力を頂いた」とのこと。
 21世紀も、林竹二の仕事が忘れ去られることはなさそうだ。私はそのことを、ひそかに喜んでいる。