21世紀の林竹二(続)

 昨年9月に「21世紀の林竹二(はやし たけじ)」という文章をアップした。
http://md-sendai.com/sendado/?p=497

 すると、ご研究を紹介させていただいた松本匡平さんが、これを読んでメールをくださった。うれしい限りである。
 お勤め先をネットで検索してみると、関西でも有数の進学校である中高一貫校で国語を教えておられるとのこと。林竹二の仕事が様々な形で受け継がれていることを知って、とても気持ちが明るくなった。

 先月、研究者インタビューの仕事で哲学の先生と社会学の先生を取材した。ネットでその下調べをしているうちに、川本隆史先生のお名前が何度か出てきた。「正義論」で知られるロールズの訳者としても有名な、日本の代表的な哲学者のお一人だ。
 この先生から私は、2003年に『教育の冒険 林竹二と宮城教育大学の1970年代』を出した時、メールをいただいたのである。たいへん高く評価していただき恐縮した。当時はまったく存じあげなかったが、慌てて感謝の返信を差し上げた。
 その時は東北大学にいらしたが、その後東京大学に移り、定年で退官なさった現在は国際基督教大学で教えておられる。

 東京大学では、たとえば2014年に教育学部で講じた「基礎教育概論」で、林竹二を取り上げておられた。
 シラバスの「授業の目的・概要」にはこうあった。

「西洋の教育の制度と思想を支えてきた複数の理念(理性、労働、自由、平等など)を社会倫理学および社会思想史の視座から点検していきたい。その助走路として、プラトン研究に出発し、歴史と現代に向き合いながら《教育の根底にあるもの》を探究し続けた人物、林竹二 (1906~85)の軌跡をたどることにする。」

 どんな授業なのか、残念ながら私の読解力ではほとんど分からないが、何となくうれしい(笑)。授業計画によれば、第2回のテーマは「哲学者・林竹二の冒険」。この回だけでもお話を聞いてみたかった。

 川本隆史先生は2006年に法務省の「法教育推進協議会」でお話をなさったそうで、その時のレジュメがネットに残っている。
https://www.moj.go.jp/content/000004283.pdf

 最後の「関連文献」一覧を見ると、先生が「月刊国語教育」(東京法令出版)という雑誌に、私の本を紹介してくださったらしいことが分かる。探して読もうとまでは思わないが、本当にありがたいことだ。

 どうせ私には分からないだろうと思って、川本隆史先生のお書きになったものは読んでいなかった。しかしこの機会に仙台市図書館で1冊借りてみた。
『共生から 双書・哲学塾』(2008年/岩波書店)
https://www.iwanami.co.jp/book/b260024.html

 一般市民向けに話し言葉で書かれているので、頑張って通読した。あくまで分からないなりにだが、面白く読むことができた。イメージだけで安易に語られがちな「共生」という言葉に、真摯に向き合う姿が感動的だ。生意気を言ってすみません(笑)。

 さて本家本元のわが母校、宮城教育大学はどうだろうと、久しぶりに公式サイトのページをめくってみた。すると現在の村松隆学長が、就任なさった2018年以来、入学式と学位記授与式で欠かさず林竹二を紹介してこられたことが分かった。
 そして何とこの2年間は、入学式の告示の中で私の本を紹介しておられたので腰を抜かした。

http://www.miyakyo-u.ac.jp/about/outline/message/message210406/index.html

http://www.miyakyo-u.ac.jp/about/outline/message/message200401/index.html

 今の1年生と2年生は、入学式で学長から私の名前を聞いている!
 「本学卒業生・大泉浩一君の著書「教育の冒険」」と述べておられるのだが、ありがたいだとか恐縮だとかを超えて、なぜか申し訳ない気持ちで一杯だ。

 私も60歳を過ぎた。残された人生を、自分なりに精一杯生きようと思う今日この頃である。