大学生のための文章講座 01

現代社会学科1年前期「現代文章表現」まとめ《前半》

それでは最終回の授業を始めましょう。
現代社会学科1年前期、「現代文章表現」のまとめです(経営法学科・看護学科・リハビリテーション学科は「現代国語表現」)。

この授業では皆さんに、「大学で単位を取るための作文の書き方」を学んでいただきました。主に作文が下手な人、文章力がない人のためのトレーニングです。
授業では毎回、実際に作文を書いていただきました。
そして「誤字脱字があろうが文章が変だろうが、作文の出来不出来では評価しません。授業終了後にテストをしたり、レポートの提出を求めたりもしません。その回ごとの条件を守って、自分なりに頑張って作文を書いてもらえれば単位を出します。欠席2回までなら最高評価をつけますよ」と言い続けてきました。

これも最初に申し上げた通り、ターゲットはこの授業を受けている人の中で、一番作文が下手な人、文章力がない人でした。
あなたにもぜひこの大学を4年間で卒業して、第一希望のところに就職してほしい。1年分余計に学費を払うことになったり、不本意な就職をして結局やめてしまうようなことになってほしくありません。
そう思って授業をしてきました。

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小・中・高の次は大学、というつもりで入学した人もいるかもしれません。しかし大学での勉強は、高校までと全く違います。
①まず、文章を書けないと単位が取れず、永遠に卒業できません。
②次に大学の先生はプロの研究者で、その立場からあなたの文章を評価します。
③最後に、文章力がないと就職活動で勝ち目がありません。

①高校までと違って大学では、教科書や授業の内容を覚えるだけでは評価されません。レポートや記述式の試験があって、絶対に文章を書かなければならないのです。授業によっては、単語を答えたり、選択肢の中から選んだりする試験もあるかもしれません。しかしそれだけでは卒業できないのです。
あなたがいくらやる気があっても専門分野の知識や技術があっても、作文が下手だというだけで単位が取れません。しかし別に、読んだ人を感動させたり感心させたりする文章を書く必要はないのです。あなたの知っている情報やあなたの考えが、読む人にちゃんと伝われば大丈夫です。そしてそうした文章力は、練習で身につけることができます。それがこの授業です。
大学での授業に加えて、看護学科やリハビリテーション学科の皆さんは実習に行きます。すると毎日実習日誌を書き、実習先の病院の指導担当者がチェックします。それをクリアしないと実習の単位が出ません。
皆さんがいくら「自分なりに頑張って書いた」と言っても通りません。「何が書いてあるのか分からない」とか「何を言いたいのか分からない」と思われた場合、書き直しや再提出を命じられるのならまだ良い方で、いきなり単位を落とすことがあるのが大学なのです。

②小中高は教育機関ですが、大学は研究機関で教育機関です。小中高の先生が集まる部屋は職員室ですが、大学では職員というのは、学生課や教務課の事務職員の方を言います。大学の先生は全員研究者なので、それぞれの研究室(この大学では教員研究室)にいます。
研究機関は大学以外に、国や企業にもたくさんありますが、そこでは授業はしていません。そして教育機関としての大学は、日本では「研究者が研究者を育てる場」として始まりました。有利な就職、専門的な資格、同じ若い世代が集まる楽しさを求めて入学する人が増えた今も、その基本は変わっていません。
大学で授業をするのに資格はいりません。小中高は教員免許が必要ですし、授業の内容は文部科学省の定めた学習指導要領で枠が決められています。教科書は検定を通らないと使えません。
しかし大学では、極端に言えばどんな授業をしても構いません。その授業を担当した先生一人に任されているのです。もちろんあなたたち学生の評価も。
大学が違って担当している先生が違えば、同じ授業名でも全く違う内容、全く違う評価方法になります。教科書があれば教科書も別々で、何の本を教科書に指定しても構いません。なぜこうなっているかと言うと、「研究者が研究者を育てる」ためには、こうした方法が最も優れているということが歴史的に証明されているからです。
それでは大学の先生は、試験も資格もなしにどうやって大学の先生になったのかというと、研究者の集まりである学会で研究が認められたからです。大学の先生は、実は大学と学会の両方に所属しています。お給料は大学からもらっていますが、学会にはお金を払って参加します。研究者としての先生は、自分の研究成果を学会の集まりで発表したり、専門の研究雑誌に論文として発表するのが仕事です。そうやってお互いに評価し合い、競い合い、バトルを勝ち抜いて研究者になるのです。そうして日本の、世界の、学問・科学の発展に貢献しています。
趣味でスポーツをするのと、プロのアスリートであり続けることは全く違います。大学の先生はプロの研究者です。そして自分が上の世代の研究者から育てられたように、自分の研究領域で後継者となる若手を育てたいと願っています。それが大学教育の基本です。
皆さんの書くレポートや記述式の答案を読んで評価するのは、そういう人たちです。厳しくて当然です。高校までは先生が、あなたのことをよく知っていました。顔が思い浮かびましたし、「この子は部活を頑張っていて偉いんだよな」と思いながら、あなたの作文を読んでいました。しかし大学の先生にとっては、あなたの書いた文章が全てです。これは医療系の学科でも全く変わりません。

③就職活動で、皆さんは必ず履歴書を書きます。書式はいろいろですが、「志望動機」は必ずあります。そして先方の採用担当者は、そこをしっかり読みます。
医療系以外の人は、応募する時にエントリーシートを書きます。「自己PR」とか「学生生活で力を入れたこと」などです。先方の採用担当者は、内容だけでなく文章もチェックします。
公務員を目指している人は、筆記試験に作文があります。そして実は医療系と福祉系も、多くの場合は筆記試験で作文を書くことになります。「就活はまだ先だから、その時になったら練習しよう」では、おそらくほとんどの人は間に合いません。
学科・専攻によっては、就活が本格化する直前に作文講座があるかもしれません。しかし無いかもしれません。ぜひこの授業で基本的な文章力を身につけて、第一志望のところに就職してください。

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こうしたことを、授業の中で繰り返し話してきました。しかし中には、「とにかくこの授業の単位が取れればそれでいい」という人もいるでしょう。そうした人にも文章の腕を上げてほしいと思って、私なりにいろいろと工夫したつもりです。
まず14回のうち前半の7回は、「コミュニケーション能力としての文章力」にテーマを絞りました。

皆さんは「コミュニケーション能力」という言葉を、この授業以外でも何度も耳にしたでしょう。大学で学ぶ上でも、仕事をするためにも、とても大切だとされています。
しかしこの言葉は便利な一方で、人によってさまざまな意味で使われる、やっかいな言葉なのです。

①話す力・聞く力・書く力・読む力:つまり「言葉を使いこなす力」です。
②説明能力:自分が理解できるだけでなく、相手の知識や理解力に合わせて説明する力です。
③他人と力をあわせる力:チームで作業や仕事をする上で絶対に必要な力です。
④想像力:相手の立場になって感じたり考えたりする力です。

などなど、「コミュニケーション能力」という言葉は、この他にもたくさんの意味で使われます。英語をはじめとする外国語の能力や、ICT能力を指すこともあります。就職活動で皆さんが求められる「コミュニケーション能力」は、これら全てを含んでいるのです。

しかしこの授業では、シンプルに「伝える力」としました。
読み手に伝われば「良い文章」で、伝わらなければ「ダメな文章」というわけです。
そのため前半の7回は、説明文と報告文の練習をしました。「自分は知っていること・自分が体験したこと」だけど、「読み手は知らないこと」を伝える練習です。
第1回は1つ、第2回はもう1つ加えて2つ、と毎回条件を増やしながら作文を書くことで、文章で伝えることの難しさと楽しさを味わってもらうことが主な目的でした。
最終的に、条件は7つになりました。

①指定字数と制限時間を守って、
②読み手を意識して、
③具体例を挙げて、
④5W1Hに気をつけて、
⑤エピソードを選んで、
⑥まとめを工夫して、
⑦考えを書く。

作文は「何を書くか」と「どう書くか」の掛け算です。どちらかが0点だと、評価は0点です。
皆さんはこの授業に、「どう書くか」というテクニックを期待したかもしれません。しかし私がたびたび強調したのは、「何を書くか」の大切さでした。
「何を書くか」を内容、「どう書くか」を表現と言い換えれば、大学で単位を取ったり就職活動をするのに、表現力はそれほど求められていません。文章の上手さよりも、充実した内容が求められているのです。

従って、思いついたことを思いついた順番に書いてはいけません。あなたが天才でない限り、必ず失敗します。つまり伝わりません。
あなたは「自分では分かっている」し、「書きたくて書くわけではない」でしょう。しかし一方の読み手は、「あなたの頭の中身なんか何も知らない」し、「読みたくて読むわけではない」のです。
面倒でも、最初に書く内容を考える時間を取って、キーワードだけでも良いのでメモを作り、書く順番やまとめを決めてから書き始めましょう。

そしてこれまた面倒でしょうが、必ず見直して修正しましょう。
私は仕事で文章を書いているので、締め切りの前日には必ず完成させます。書き終えた直後は興奮しているし解放感もあるので、間違いなく目が曇っています。
一晩寝てから読み直すと、誤字脱字はあるし独りよがりな表現はあるしで、自分が嫌になります。しかしこの作業から逃れることはできません。

もしもあなたが何か文章を読んで「分かった」と思ったならば、それはその文章を書いた人が頑張ったからです。あなたも頑張ってください。誰よりもまず、あなた自身のために。
「何を書くか」の説明は、以上です。